新しい家づくりの設計手法について
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人が生活をしていく上での生活の三要素は『衣・食・住』と言う三つの言葉で簡潔に表しております。つまり「衣服と食物と住居」は「生活する上で必要な基礎」であり、人が人として豊かに生きると言う事を前提としたものであり、その中の『住』に関してだけ言えば、人が人として住まう為の、或いは生活する為の空間であり器であります。当然、『衣』『食』の様に生きる為の食事をとったり暑さ寒さ予防の為の衣服の着用なども、人が生活していく上でとても大事な事であります。しかし『住』に関しては、他の『衣』『食』とは多少、次元が異なるのでは、と私は考えております。何故なら、『住』『衣』の大きな違いは、『衣』は流行や廃れ等があり、且つ、体系の変化や色・柄などのデザインの嗜好によっては捨てられてしまいますが、しかし『住』は非常に高額な買い物であり一度、家を建てれば富裕層等はともかく一般的サラリーマン等では
建てた家が気に入らなくとも『衣』や『食』の様に安易に捨てる事が出来ず、我慢や妥協を強いられながら、その家で暮らし続けなければならない、と言う事であります。一般的に自分の家を持つと言う行為は一生に一度位であろう。それだけに失敗しない為の家づくりは最も大事な作業と言えます。その中でも特に重要になってくるのが基本的な設計で在り、ランドスケープデザインをベースに考えて行くサイトプランニングで在ります。この作業こそが設計の前段で取り組むべき非常に重要な作業で在り、基本中の基本と言えます。この手法は、与えられた敷地を敷地の外から俯瞰しながら敷地の履歴や気象、近隣の状況、プライバシーの問題、季節ごとの風向き、冬期間の雪の問題、庭の取り方、眺望性、平屋建てか、若しくは2階建てか、等々、よくよく調査し検討し、その結果として、家の配置、庭の配置、車庫、外部物置などを決めていく、この作業こそが、最も最初に行うべき基本中の基本であります。所が、これらのサイトプランニングをせずに「先に間取りありき」で決める巷の建売住宅などを見ると、その殆どが、このサイトプランニングを行っておらず、よって、建売団地としての街並みや品格などが崩れ、ちぐはぐな整合性のとれないな街並みとなってしまっております。正に設計の段階で設計者、或いは工務店の設計担当者たちが、敷地や周辺地域の様々な環境チェックを捉えていないからであります。山形を中心とした村山地方は盆地特有の寒暖の差が大きく、且つ雪も少なくありません。又、年間通じて約60~70%が北西方向から吹く風と言われております。その事も有ってか、古来からこの地方では、建物配置や形態等に関して、或いは屋根の向きや勾配、軒の出などに関して、冬期間の強い北西風と雪の影響を極力受けにくい形状や向き、勾配などを、経験上、積み重ね伝承してきた歴史があり、ある意味ではこの地域の『風土性』として語られていたのですが、しかし、今ではその事も忘れ去られ非常に曖昧なものとなってしまいました。建売団地の中には、例えば自然と真っ向から対決する様なデザインの家なども見かけますが、この地域の風土性から考えれば如何なものでしょうか?
デザインとは機能があってのデザインです。勿論、個性は大事です、が、その個性が機能を無視したデザインであれば、その個性的なデザインも単なる形遊びでしかないのではないでしょうか。 翻って、福島県会津の大内宿などは前述の典型的な具体例であり、集落としての美しさはここに記載するまでもありません。今では多くの観光客がわざわざ、その集落の美しさを見に行く、その様な時代であります。他方、昨今の、所謂「ニュータウン」と呼ばれる建売住宅団地を「街並み」と言う観点で見た場合、残念ながら各家々の個性的デザイン?と呼べるのか分からないけれど、兎に角、様々なデザイン=個性がぶつかり合い、逆に非常に纏まりのない、美観と言うには程遠いチグハグな街並みになってしまっているケースが非常に多く見受けられるのです。
それでは、美観と言う観点から見た時に何故、美しくないのかが分かりますでしょうか?
私の勝手な解釈になりますが、先ず、施主も建売メーカーや工務店側の設計者、そして施主側すらも、個性=デザインと考えているからではないでしょうか。勿論、その様な考え方も全て間違っているとは申しませんが、しかし、家の外観だけは街並み景観上、周辺景観との調和や繋がり等が、最も重要な要素となってくるのではないでしょうか。地域社会との繋がりが街並み形成上、の原点となってくるのではないでしょうか。兎に角、独りよがりな個性的デザインは景観上好ましくない場合が多いので十分な検討が必要かと思います。外観づくりには周辺景観との程よい調和と街並みとの何とも言えない微妙な比例(プロポーション)であります。昔の古民家のプロポーションを思い起こしてください。例えば屋根の形と軒の出のバランス、壁と窓との絶妙な比例配分、屋根勾配の美しさ、等々、実にきれいな形をしており、地域の環境に馴染む形と配置が実に美しいのであります。岐阜県飛騨高山や白川郷の集落なども大屋根の向きが冬の季節風に逆らわず実に整然と同じ方向を向いて佇んでおり、実にきれいな集落で在ります。
そうです、発注者も設計者も施工者も或は地域に住む人々さえも、この地区の様に自然環境や景観などにに対する関心が高まって来れば、あの様な美しい街並みを作る事が出来るものと思うのであります。
大手ハウジングメーカーは自然環境との共存と快適な暮らしの両立をうたった「環境共生住宅」等と称して、地球環境問題、とりわけ温暖化問題に関する二酸化炭素排出の問題や化石燃料の枯渇を前提とする次世代省エネ問題等が基本となっておりますが、しかし、美しい町並みづくりと言う観点では、まだまだ至っては居ない様に思うのです。しかし、将来的には、ハード面の環境問題ばかりでなく美観と言うソフト面での環境問題を論じ合えば、自ずと街並みも美しくなっていくものと私は思っております。本来、美しい町並みと言うものは個人が持っている美意識もありますが、総じて自然環境等が底流にあるべきであり、農耕民族である日本人としての自然観、つまり自然に対する崇拝と畏怖の念があれば十分に叶えられる事であると思うのであります。以上、一日も早く欧州の街並みに近づく事を祈って。
参考サイト:
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